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1.272022
廣瀬先生の徒然日記 vol.037
みなさま、あけましておめでとうございます。なんだか、またコロナで世間が騒がしくなってきましたね。なにかとストレスが多い日々が続きますが、どうか上手に気分転換しながら健康に気をつけて冬を乗り切ってください。
ところで、前回はストレスホルモンのお話をしました。今回も引き続き、ストレスのお話をしたいと思います。
アメリカの科学雑誌Nature(2021年11月18日)に「ラットの眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)のニューロン(生物の脳を構成する神経細胞のこと)は、動物が次に目指す目的地をナビゲーション中、常に指し示し続ける空間表現を形成する。この目的地に対する神経細胞表現は、ナビゲーションを開始する直前に、離れた場所にある目的地を直接知覚することなしに形成され、さらには、動物が誤った試行を始める際には、これから向かう間違った目的地すら予測する(Natureより引用)」と発表されました。我々が、A地点からB地点へ向かう際(家から友達と待ち合わせている駅改札口など)、自分の現在地を正確に把握するだけでなく、B地点までの「未来」の地図情報を描いてナビゲーションする必要があります。
つまり、眼窩前頭皮質のニューロンは、未来の目的地の地図形成とナビゲーションに関わっており、ナビゲーションを開始する直前に、離れた場所にある目的地を直接知覚することなしに「未来」の目的地に到達するまでに目まぐるしく変化する周辺状況・位置情報(距離や空間)を想定して処理し、私たちを目的地にナビゲーションし続けてくれるというのです。さらには、これから向かう間違った目的地すら予測するそうです。また、目的地までの探索開始時に短時間の攪乱を与えると、ナビゲーションエラーを生じるとのことです。面白いですね。
実は、この眼窩前頭皮質はストレスととても関連があります。眼窩前頭皮質を有する前頭前野は人間の人間性やコミュニケーション能力に関わっている部分です。特に眼窩前頭皮質は感情の理解、モラル、社会性にかかわっていることが知られています。眼窩前頭皮質は、思考や創造性を担う脳の最高中枢・前頭前皮質の表面にあり、 眼球が収まっている、眼窩(がんか)という頭蓋骨の空洞のすぐ上に位置します(右図)。視覚、味覚、嗅覚など全感覚情報が入力し、攻撃性制御(攻撃の適切性の判断)、人格、道徳(モラル)、社会性、後悔、楽しみや喜び、他者の情動的な心の理解、自分に関する記憶の想起、自律神経制御(心臓にも影響)などに関わる領域です。
そのため、眼窩前頭皮質が損傷すると、情動・動機づけ機能に障害がみられ、パーソナリティーが浅薄でルーズになる傾向、不適切な多幸感(非常に幸せな感じ。特に、薬物などがもたらす過度の幸福)やいらいら感、性的放縦(性的な物事に関してふしだらであること、具体的には容易に肉体関係を持ったり、複数の人と肉体関係を持つことなどを意味する語。 境界性パーソナリティ障害、解離性同一性障害などの精神疾患の特徴の一つとされることが多い。)、パラノイア(ある妄想を始終持ち続ける精神病)、感情鈍磨(その人らしい情緒性や道徳性が低下したり、嬉しい・楽しい・悲しい、などの感情表現が乏しくなること)、衝動性(悪い結果になってしまうかもしれない行動を、あまり深く考えずに行ってしまうという行動特性)を示したり、攻撃的(いわゆるキレやすい状態)、多動になることが報告されています。ギャンブル・アルコール・薬物に依存しやすくなる、性的欲動を抑制できなくなる、などが知られており、サイコパス(反社会性パーソナリティ障害)ではこの領域に問題があると考えられており、動物実験でも証明されています。 また、眼窩前頭皮質の内側部は報酬など良いことの処理、外側部は罰など悪いことの処理に関わると考えられています(内側は楽しいことを思い出している時に活動が増加し、外側は嫌なことを思い出す時に活動が増加します)。
脳の機能には、ストレスが大きく関わっており、適度なストレスは、脳内にストレスホルモンを分泌させ脳機能を高めます。しかし過剰なストレスは、脳機能を低下させ、最悪の場合は細胞が死んでしまいます。ストレスに弱い脳部位に前頭前野(人間性・モラル)、海馬(記憶)などがあり、過剰なストレスでその機能が低下すると考えられています。つまり、過度なストレスは人間性やモラルを低下させると考えられています。
ラットの実験では、面倒見の良いお母さんと悪いお母さんに育てられた子どもの比較で、面倒見の悪いお母さんに育てられた子どもはストレスに弱くなることなどがわかっています。まだ仮説ですが、生後、数カ月の間に眼窩前頭皮質が正常に発達するには母子の頻繁な接触が大切で、幼児の頃にストレスを多く経験すると、眼窩前頭皮質にダメージを受け、後に精神医学的な病気にかかりやすくなると考えられています。また、眼窩前頭皮質は児童虐待が原因となる解離性同一性障害(多重人格)の原因領域と推定されており、うつ病では内側部の活動低下や外側部の活動増加が原因ではないかとの説もでてきています。
私たちが何気なく習得する言語。眼窩前頭皮質外側部の近くに言語野があり、言語は幼少期に親などの真似をすることで学習します。これと同様に、人格も幼少期に周囲にいる大人の真似をすることで発達すると考えられています。日本語を聞いて育つと日本語を話すようになり、愛されて育つと愛するようになり、いじめられて育つといじめるようになり、過度に干渉されて育つとストーカーになる(過干渉は児童虐待の一種)。我慢強く夢を追いかける大人の背中を見て育つと・・・。力で支配されたり我慢させられたり騙されて育つと・・・。問題はマネー(お金や財力)ではなく不適切なマネ(真似)かもしれません(反面教師にしてされて嫌な事を他人にしない方も多いですが)。原因に関しては諸説あり、はっきりとした原因は不明です。みなさんは問題の原因を何と考え、どうやって問題を解決しますか?
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