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廣瀬先生の徒然日記 vol.039

2022年3月23日

みなさまこんにちは。ようやく、まん防が明けました。これから、歓送迎会、花見、春休みの旅行など、何かと春のイベントがあるかもしれませんが、体調を壊さないよう楽しんでください。

“春眠暁を覚えず”などと言います。春になると、なぜか眠たくて眠たくてたまらない人がいると思います。そんな方の為に、気休めかもしれませんが、体内時計、概日リズムのお話しをしたいと思います。

サイエンス好きの方は記憶しているかもしれません。2017年のノーベル生理学・医学賞の受賞者は、「体内時計」のメカニズムを発見した3人のアメリカ人科学者ホール博士(Jeffrey C. Hall)、 ロスバシュ博士(Michael Rosbash)、ヤング博士(Michael W. Young) でした。
体内時計、概日リズムの研究は、あれからどんどん進んでいますので、その紹介もしたいと思います。
朝起き苦手の人は、自分の心の弱さではないと安心してください。

〇春眠暁を覚えず

春、よく寝たつもりでも、寝不足だと感じるのはいくつか原因があると考えられています。一つは、花粉症や職場や学校の環境変化からくるストレスによる不眠。ストレスによって「体内時計」の調節が狂ってしまいます。もう一つは、季節によって人間の「体内時計」が変化することが原因といわれています。冬は睡眠時間が長く、春になるとだんだん短くなってきます。睡眠ホルモンといわれる「メラトニン(説明1)」 も春になるにしたがって、徐々に早い時間帯に分泌されるようになるため、春になると目覚める時間が徐々に早くなるはずですが、春になっても冬の冬眠モードから抜け出せない場合は朝の目覚めが悪くなってしまいます。

「体内時計」は25時間周期で変動する生理現象で、睡眠・覚醒リズム以外にも、体温などの「自律神経系」「内分泌ホルモン系」「免疫・代謝系」なども約1日のリズムに調節しています。このような約1日の周期をもつリズムのことを「概日リズム」(英語ではサーカディアン・リズム)と呼んでいます。「概日リズム」には個人差があり、内在的に形成されているものですが、光や食事などの外界からの刺激によって修正されることが知られています。

上記の文章で、お気付きでしょうが、地球1周は24時間なのに「概日リズム」は25時間ですから、周期に1時間のズレがあります。なにも時間の制限が無い休日だと、寝付く時刻と目が覚める時刻が1日ごとに約1時間ずつ遅れていくことが観察されます。つまり、土日や休暇明けの出勤や通学で辛いのは、生活時間が1時間ズレるからです。後ろにズレた「概日リズム」は、決まった朝の時間に光をあびる、決まった時間に食事をとる、決まった時間に仕事(学校で勉強)する、といった規則正しい生活を実践することで修正することが可能です。このズレを修正できず、睡眠・覚醒リズムに乱れが生じたために起こる睡眠の障害を「概日リズム睡眠障害」と呼びます。このリズム障害には数種類あるのですが、この睡眠障害のお話は、また今度。

(説明1):メラトニンは、脳内の松果体において生合成される眠りを誘うホルモン。ヒトだけでなく下等生物も持っており、季節のリズムや概日リズムの調節作用をもつ。例えば、鳥類では、渡りのタイミングや季節性繁殖などの季節のリズムにも関わっている。明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるため、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加する明瞭な日内変動が生じる。

〇体内時計と免疫

睡眠だけでなく、「概日リズム」を良好な状態に維持すれば、私たちの健康につながると一般に考えられています。例えば、2020年2月に京都府立医科大学の八木田教授らの研究グループは、以下の内容を発表しました(京都府立医科大学 [PRESS RELEASE]より)。
1:体内時計の乱れが長期持続する明暗周期シフト条件では、寿命の短縮とともに免疫老化が促進
2:体内時計の乱れが長期にわたり続くことで促進。免疫制御や免疫疾患に関係する遺伝子ネットワークの顕著な活性化が認められた
3:肝臓では、持続する体内時計の乱れが脂肪肝炎様の脾臓およびリンパ節において、持続する軽度の炎症(慢性炎症)を増進する
4:体内時計の乱れは、脾臓およびリンパ節において、老化関連T細胞の増加など免疫老化に特徴的な免疫細胞の変化を促進する

また、2017年の「Nature Communications」で、キングストン・ミルズ(Kingston Mills)とアニー・カーティス(Annie Curtis)たちの研究グループは、マウスを用いた実験によって「概日関連遺伝子」が自己免疫性脳脊髄炎の重症化に寄与することを示し、免疫応答の誘導と自己免疫の制御が、免疫化を行う時間帯に左右されることを明らかにしました。

「概日リズム」の良好な状態は、免疫力をあげるのに重要です。風邪予防だけでなく、自己免疫疾患や炎症反応の抑制、老化防止のために、各個人に最適な生活リズムを保ってください。

〇「夜型」は「朝型」にはなれないー各個人に最適な生活リズムとはー

さきほど、いきなり、「概日関連遺伝子」という言葉がでてきました。時計遺伝子とも言い、「概日リズム」には、多くの遺伝子が関わっており、これらの遺伝子には個人差があります。そのため、「朝型」と「夜型」の人間がいるのです。

先に予備知識ですが、 単細胞生物や培養細胞株あるいは各組織を構成する細胞の一つ一つが概日時計を有しています。近年、「概日リズム」の発振の分子機構が解明され、ほぼ全ての細胞で発現する時計遺伝子の転写・翻訳フィードバックループによって約24時間のリズムが生じていることが分かってきました。

もう少し説明すると、脳の視床下部にはマスタークロックがあり、ここで時計遺伝子が活動しています。ここには、“振り子”があって、“振り子”が周囲の環境から放たれるさまざまな信号を受け取り、1日のうちでいま何時かを体に“セットする”と考えられています。 視床下部で受け取る信号のひとつは光です。例えば、網膜が「夜だ」と信号を送ると、脳はメラトニン(眠りを誘うホルモン)を分泌します。

さて、「朝型」と「夜型」の人間の話に戻りましょう。
2019年の「Nature Communications」で、イギリスのエクセター大学医学部サミュエル・ジョーンズ(Samuel E. Jones)博士らの研究グループは、「早起きが得意な「朝型」と、日が沈んでからのほうが活動の能率が高くなる「夜型」の人。その差は遺伝子によって決まるため、どんなに努力しても自分のタイプを変えることはできない と発表しました。 早起きが苦手な人には、心の弱さではないと安心できる一方、どうすることもできないのかと落胆する心が鬩ぎ合う報告ですね。

論文の執筆者のジョーンズは、「すべての組織には、すべての時計遺伝子が含まれている」「一方で、すべての組織において、すべての遺伝子が活性化しているわけではない」と説明しています。 さらに、「概日リズムに関連することを突き止めた遺伝子は、脳と網膜で活性化されている傾向がみられました。この傾向があるために、朝型人間や夜型人間を生み出されます」と、ジョーンズは説明しています。 「朝型人間の遺伝子が網膜に集中している」「朝型人間と夜型人間では光の量を検知するメカニズムが異なる」ことがわかったのは重要です。体内で、光の信号を処理し、その結果「寝る時間だ!」と体に信号を送る(or送らない)仕組みは、本質的に遺伝子によって決められているのです。

〇個々の遺伝子に合ったライフスタイル

「朝型の遺伝子をもつ人は、現代社会で言うところの定時、つまり朝9時から夕方5時までを軸としたライフスタイルに適応しやすい、反対に「夜型の遺伝子」を持つ人は夜を軸としたライフスタイル(夜勤など)に適応しやすいことが、研究でわかってきました。決して、気持ちの問題だけではありません。

ライフスタイルの乱れは、うつ病や統合失調症といったさまざまな精神疾患とかかわっていることが知られますし、概日リズムの破綻や概日関連遺伝子の多型は高血圧や糖尿病、睡眠障害など多くの疾患との関連性が報告されています。

今後は、ライフスタイルと「概日リズム」の遺伝的傾向のミスマッチによって多くの成人病や精神疾患が生じる可能性があるかどうかに目を向けるべきと考えられます。

また、将来的には、いわゆる定時(9時から17時)ではない時間帯で能率が高まる人がいるという事実を踏まえて、より柔軟なフレックスタイム制の導入や日勤・夜勤体制や職種などを正当づけることができると考えられます。生産性を高めるだけでなく、働く人の精神面における健康を促進することにも繋がりますね。

「夜型」は「朝方」になれない、遺伝子には勝てない、ということが分かったところで、朝に学校や仕事に行かなければならない事実はかわりません。今のところは、この研究が進むことを心待ちにして、頑張って早起きするしかないですね。 ちなみに、私は「超朝型」のようで、とっても早寝早起きです。

それでは、気持ちのよい季節になってきました。睡眠をよくとり、適度な運動と健康的な食事をこころがけつつ、良い気候を楽しんでください。

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