2025年6月(342号) 「売り方」

商売繁盛の法則

日本人は職人気質の人が多く、「作る」のは得意でも「売る」のが苦手な人が多いとよく言われます。
しかし、商売を繁盛させるためには、「作る」こと以上に「売る」ことが重要です。

よくある話に、「マクドナルドより美味しいハンバーガーショップはたくさんあるが、マクドナルドほど売り方に優れた店はない」というものがあります。
商売とは「作ること」ではなく、「売ること」こそが本質なのです。

私の考える商売の原理原則は、昔話の「山彦と海彦」のような関係です。
山でしか採れないものを海で暮らす人に、海でしか手に入らないものを山の人に提供する──。
この「橋渡し」こそが、商売人の役割です。

山や海で獲ったり作ったりする人は「生産者」、それを加工すれば「製造者」となりますが、商売とは区別されます。

いくら良いモノを作っても、それを必要としない人には価値がありません。
「欲しい」と思っている人に提供して、初めてお金という対価が生まれるのです。

そして、「欲しいモノ」も時代と共に進化します。

「買い方」も変わります。

同じモノを同じ売り方で売り続けていては、やがて売れなくなってしまいます。

私はかつて酒屋に就職し、御用聞きで既存のお客様から注文を取り、配達していました。
しかし、それだけでは売上が伸びず、もっと店を大きくしたいと考え、新規開拓に取り組むことにしました。

同業で働く番頭さんについて回り、そのやり方を見て学びました。
いつも近くにいるので、「名刺はあるか?」と声をかけてもらったのですが、持っていなかったため、すぐに店に頼んで作ってもらい、一軒一軒訪問を始めました。

ちょうどその頃、市営住宅が平屋からビルに建て替えられ、得意先もそのビルに引っ越しました。
配達に行くと、たくさんの酒屋さんが挨拶に訪れて「取引してほしい」と次々に営業をかけてきていました。
「兄ちゃんも訪問せんと、他の酒屋に得意先を取られるで」と言われて、私はハッと気付きました。

当時、やり手の酒屋は多くの従業員(丁稚)を抱えていました。
一人で対抗するにはどうするか──と思いついたのが、生徒会長時代に配っていた「ビラ/チラシ」です。

応接室に今も飾っていて、チラシには「男前の丁稚がすぐ配達」「嫁さん募集中」など、ユーモアを交えて書き、何度か配布しました。
そして訪問時に「いつもチラシを配っているイタヤ酒店の“男前の丁稚”です」とドアコールすると、それまで門前払いだったお宅でもドアを開けてくれるようになったのです。

「男前の丁稚って、兄ちゃんのこと?」と聞かれ、「そうなんです」と答えると、みんな笑ってくれる。
ここまで来ればしめたもの。
当時、チラシを配布してから訪問営業する酒屋は他になく、新規客を面白いほど獲得できました。

また、訪問営業の曜日を決め、既存顧客への御用聞き・配達と、新規開拓をきちんと分けて行いました。
朝に訪問して留守なら午後に、午後も留守なら夕方に、夕方も留守なら夜に──という具合に訪問時間をずらしていくと、在宅率が分かるようになります。

その結果、夕方以降に帰宅する共働き家庭は、昼間在宅している家庭に比べて注文単価が圧倒的に高いことが分かりました。
また、チラシを配るだけで電話注文が入ることも多く、「必要としている人に、必要な提案をすること」の大切さを実感しました。

さらに、宅配ではまとめ買いの傾向が強く、来店して少しずつ購入する買い方とは全く違います。
売れる商品も異なります。
この違いを理解していない小売業が苦しんでいるのは、現場経験がないからです。

「石の上にも三年」と言いますが、最低限の現場経験は必要です。
しかも、目的意識を持って経験を積まなければ意味がありません。

店売り中心の低単価商品を扱うコンビニが宅配で成功しないのも、スーパーが宅配で成果を出せないのも当然なのです。
購入する商品や単位がまったく違うからです。

23歳で居酒屋の店長に抜擢されたとき、周囲の店は業務用の冷凍食材を使っていました。
私は毎朝市場に仕入れに行き、自分で下処理をして、注文を受けてから調理して提供しました。
その結果、「旬の食材を使った創作居酒屋」として口コミが広がり、繁盛しました。

資金がなかったため、独立時は宅配専門店を開業し、修行時代に培った売り方に磨きをかけて事業を展開。
社員を育成し、商圏を広げてフランチャイズに切り替え、酒問屋と提携してエリアFC契約を結び、全国15都府県・268店舗にまで拡大しました。

当時は酒類販売免許が必要で直営展開に時間がかかるため、酒問屋をエリア本部とすることでリスクヘッジとスピード拡大ができたのです。
もし自社のみで展開していたら、酒類免許自由化の波に飲まれて生き残れなかったかもしれません。

やがてインターネットの普及により、消費者の「買い方」が激変しました。
チラシや紙カタログが効かなくなりました。

ニーズの細分化により、商圏を全国規模に広げないと客数を維持できなくなりました。
「売り込む営業」から「検索で見つけてもらう営業」へと売り方も変化しました。

飲食店を含むリアル店舗も、「立地」ではなく「検索での可視性」が重視されるようになりました。
口コミが良いか悪いかで評価される時代です。

SNS、SEO、リスティング広告、アフィリエイト広告など、インターネットを活用した集客へと進化しています。

「インターネットで売れないからやめた」と耳にしますが、それは「売ることを諦めた」と同じです。
「人が来ないから募集をやめた」と言っているのと変わりません。


売り方の追求、ノウハウの確立こそ、商売繁盛の大法則です。

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